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現場から(奄美新聞掲載)
「勢い」と「確かな力」
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 第99回全国高校野球選手権鹿児島県大会で大島が24年ぶりに8強入りした。13年春に4強入りして以降、この5年間は春、秋、NHK旗のいずれかで4強入りし、14年春には21世紀枠でセンバツ甲子園出場も果たしたが、夏は毎年のようにシードされながら4回戦までで敗退が続いていた。その壁を破って8強入りしたのは「大高野球部の歴史の一歩前進」(塗木哲哉監督)といえる。


 来年で100回を迎える大会の歴史を紐解くと、鹿児島の離島勢で夏に4強入りしたのは1980年の第62回大会で中種子と徳之島、05年の第87回大会で種子島、この2度しかない。決勝進出はどのチームも果たしたことがない。この5年間、春、秋、NHK旗では安定して8強、4強に勝ち残っていた大島でも、なかなか夏を勝てなかった。裏を返せば夏の大会にはほかのどの大会にもない特別なものがある。
 「夏の準々決勝以降の戦いはグレードが上がる」
 大島・塗木監督は常々話していた。夏の準々決勝以降の試合には確かに独特な雰囲気がある。
 それまで県立鴨池、鴨池市民の2会場だったのが、県立球場のみの開催になり、試合数も1日2試合と少なくなる。メディアの取材人数も増え、テレビやラジオの中継が入るようになる。何より暑さの「質」も4回戦までとは異なるように感じる。大会が開幕した頃はまだ梅雨時期で、思ったほど暑さを感じない時もあるが、準々決勝が開催される頃にはたいてい梅雨も明けている。灼熱の太陽や入道雲、蝉の声…長年取材していても暑さの違いに戸惑うことがある。

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 「グレード」の上がった準々決勝以降で、本当の力を発揮してくるのが樟南、鹿児島実、神村学園といった甲子園常連の強豪校だ。準々決勝で大島と対戦した樟南の2年生左腕・松本晴は九回二死まで無安打無得点という快投を演じた。これまでベンチ入りすらしたことがない松本だったが、さすがは樟南のエース番号を夏に勝ち取っただけのことはあると、脱帽するような好投だった。近年は打撃重視の傾向が強く、1人の好投手だけでは夏を勝ち抜くのは難しいとされる中、計算できるエースを育て、守備からリズムを作る伝統の樟南野球の底力を感じた。

 大島をはじめとする離島勢や公立高校が夏を勝ち取る難しさを改めて痛感した大会だったが、そういった学校が勝ち上がるヒントになる戦いをしたのが、準優勝した鹿児島だ。鹿児島も甲子園出場経験のある私学だが、夏は8強が8年ぶり、4強が15年ぶり、決勝が25年ぶりと長いこと勝てずにいた。
 今チームも2年生に良い選手がいるという情報はあったが、昨秋は4回戦で鹿児島実に2―12で六回コールド負け、春は初戦で鹿児島玉龍に1―6で敗退と結果を残せていなかった。夏の展望を考える際も、鹿玉龍に手も足も出ずに敗れた姿を見ていただけに、注目校に挙げるのがためらわれた。
 そんな鹿児島だったが、初戦で第7シード池田に2―1で競り勝つと、準決勝まで5試合を1点差勝ち。4回戦・鶴丸は3点差、準々決勝・鹿児島実は4点差、準決勝・鹿屋中央は5点差を逆転と、神がかり的な内容で25年ぶりに決勝に勝ち進んだ。神村学園との決勝戦も終盤までリードし、主導権を握っており、50年ぶりとなる甲子園へあと一歩と迫る戦いぶりだった。
 140キロを投げるエースがいるわけでも、ホームランが打てる強打者がいるわけでもない。単純に戦力を比較しても、大島や春8強入りした徳之島と大きな差があるとは思えない。それでも強豪校に競り勝ち、あわや甲子園というところまで戦えたところに、他校が学ぶヒントが隠れている。
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 昨秋、今春と実績がないだけに「一戦必勝が『目標』だった」と鹿児島・福山樹主将は言う。先を見ずに目の前の一戦に集中し、結果を残すことで自信をつけていった。振り返れば昨夏4強入りした川内や志布志、11年に準優勝した薩摩中央などは、勝ち上がるごとに自信をつけ「勢い」をつかむことができた。
 夏の大会は、どの大会にもない独特の雰囲気があるが、何かをきっかけに「勢い」が作りやすい大会であるともいえる。勢いに乗ったチームが、それまでの実績関係なく力のあるチームを凌駕する試合があるのも、夏の特徴といえるだろう。

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 そんな鹿児島の「勢い」をも覆して5年ぶりの甲子園をつかんだ神村学園には「確かな力」を感じた。決勝戦の前半は鹿児島の勢いにのまれかけたが、1人冷静に自分の仕事をして、チームを立て直した選手がいた。五回に三塁打、八回に本塁打、いずれも試合を振り出しに戻す長打を放った前畑太壱だ。五回に代打で出た前畑は、打席に入る前にベンチ裏で座禅を組み、自分の仕事とやるべきことを確認し、打席に立ったという。

 大島は24年ぶりに夏8強入りしたが、選手たちは誰1人、満足していなかった。「本気で甲子園」(濱田雄一郎主将)を目指していたからだ。彼らが登ろうとする山は依然険しく、高い。それでも挑もうと本気で取り組み続けたこの5年近い間の積み重ねが、1つの壁を破ることができた。その志と取り組む姿勢がこれからも受け継がれていくことが「確かな力」と「勢い」を生み、大きな歴史を動かす力になると信じたい。

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テーマ:高校野球 - ジャンル:スポーツ

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