鹿児島在住のスポーツ記者が発信するスポーツ情報サイト

ギャラリーショッピング
ひと紀行「夢念夢想」第5回
スポーツを楽しむ「種」をまく
元プロバスケット選手の新たな挑戦
松岡拓志さん(元レノヴァ鹿児島、NPO法人SEED理事長)

171017SEED01_035
 引退後の「第2の人生」をどうするか? 競技を問わず、あらゆるスポーツ選手が共通して持つテーマだろう。引退してもその競技に関わっていられる道は未だ限られている。元プロバスケットボール選手の松岡拓志さんは引退後の人生を「子供たちにバスケットを教えたい」とNPO法人のスポーツクラブ「SEED」を立ち上げた。「スポーツ・エキスパート・エデュケーション」の略称だが、「スポーツに楽しんで取り組む『種』をまきたい」という理念が込められている。


(有)南日本音響・カラオケ「ビッグバン」提供



ロイヤル化粧品株式会社提供


 「今でこそ何とも思わなくなりましたけれども、最初の頃は『プレーしたい!』という衝動を抑えるのが大変でしたよ」
171017SEED02_035
 松岡さんは苦笑する。小中学生にバスケットを指導する教室を立ち上げ、NPO法人として運営を始めて間もなく2年になる。最初の頃はコートで子供たちを教えていても、自分がプレーしたいという衝動が抑えられなかったという。
 バスケットは小学3年生で「兄の相手をさせられて」始めた。本格的に始めたのは中学生になってから。入学時140cmしかなかったが3年間で32cm伸びた。NBAのマイケル・ジョーダンや漫画「スラムダンク」の流川や沢北のようなチームを勝利に導くエースに憧れた。大学卒業後はプロ選手になることを夢見て、アルバイトで生計を立てながら鹿児島、熊本、神奈川などを転々としクラブチームなどで技を磨きながらチャンスを探した。
 念願かなって地元・鹿児島のレノヴァと契約したのが11年。そこから3シーズン在籍したが、出場機会は少なく「3年間の総得点も10点あるかないか」で、チームを勝たせるエースになることはできなかった。レノヴァを退団したのは14年3月で30歳になる年だった。まだまだ現役で続けたい気持ちと、区切りをつけて第2の人生を始めるか、葛藤を抱えた日々がしばらく続いた。

 スクール事業を立ち上げようと思ったきっかけは、レノヴァ時代にスクールで教えていた子の保護者から「教室を開いてもらえませんか?」と声を掛けられたことだった。8月に鹿児島市の健康の森公園体育館で1人500円の教室を1回やってみた。レノヴァ時代の「教え子」が20人ほど集まった。「自分が必要とされている」ことが何より嬉しかった。
 「バスケットを教える」ことを仕事にしたいとは現役の頃から漠然と考えていた。現役の頃から、陸上を中心とした総合型地域スポーツクラブをNPO法人で運営しているSCCと関りがあり、3年間、小学校の「体育活動コーディネーター」として県内各地の体育指導に携わったことがあった。
 中学、高校と違って、体育の専門教諭がいない小学校に対して、プロスポーツ選手として培ったキャリアを生かして体育の授業のお手伝いをする。ある小規模校に派遣されたとき、小学3年生ぐらいの中国人の男の子の面倒を見たことがあった。中国にいた頃は、学校に体育の授業自体がなかったらしく、運動が全くできない子だった。鉄棒の前回りができなかったため、松岡さんがつきっきりでコツを教えた。
 数日経って学校から電話があった。前回りができるようになったことがきっかけで、その子は逆上がりにも挑戦し、いろんなことに対して意欲的に、前向きに取り組むようになったことに対するお礼の電話だった。次回、その学校に指導に行くと、その子は満面の笑顔で前回りを何回も見せてくれた。その姿に「子供たちに教える」仕事の原点を学んだ。

 15年の夏ごろから法人格を取得する準備をはじめ、12月末にNPO法人・SEEDとしての活動がスタートした。平日の夜、19:00から21:00ごろまでの約2時間、小中学生を対象に、子供たちにバスケットの基本技術などを教える教室事業がメーンの活動である。使用する会場は健康の森公園体育館などの公共施設や、社会体育で開放している学校などを転々としている。
 通ってくる子供たちの事情は様々だ。自分の学校にチームがない子もいれば、チームに所属しているが専門の指導者がいないために「もっとうまくなりたい」と高い意識で通う子もいる。「ミニバスケットの経験がある中学生にプレーさせてみても、ドリブルやパスなどの基本動作ができていない子も多い」と言う。そういった子供たちのニーズに応え、基本技術を教えながら、子供たちの個性を伸ばし、何より「バスケットが楽しむ」気持ちを持ってプレーする子供を育てていくことがSEEDの社会貢献と考えている。

171017SEED03_035
 10月17日、市内の城西中であった教室には10人の参加者がいた。
 「5mの距離ってどのくらいだと思う?」
 松岡さんが問いかけた。子供たちは自分の感覚で松岡さんから離れる。実際に巻き尺で5mの距離を示すと実際より短かったり、長かったり、自分の感覚のズレを実感できた。「小学生なら4m、中学生以上なら5m、この間隔が、オフェンスでお互いに邪魔にならない距離なんだよ」。
 5mの長さを計って三角形を作り、受け取る方に足を踏み出し、パスを出した後は出したのと逆の方向に向かって走る。これを1分間繰り返す。パスはゆっくりよりも速く、強く出した方が相手の守備に時間を与えず、自分たちが有利に攻撃できるようになる。キャッチの仕方、パスの出し方、身体の使い方…単調な動作の中に実際の試合で生かせる基本が詰まっている。
 2人1組でパス交換をしながらシュートにいく。最初はゆっくり正確にかたちを覚える。「ライブ!」と言った瞬間からはスピードを上げ、全力でやる。
171017SEED04_035
 「練習で全力を出さないヤツが、試合で全力が出せるわけがないだろう!」
 松岡さんが熱くなった瞬間があった。「ライブ」の時間帯なのに明らかに全力を出していない。ミスをしたこと、できなかったことを咎めようとは思わない。しかし、言ったことをやろうとしなかったり、何も考えずに漠然と取り組むことには厳しく指導する。ミスが続けばプレーを止め、なぜそのプレーを選択したか、どうしてミスをしたか…名前を呼び、会話のキャッチボールをしながら自ら考えてプレーすることの大事さを説いていた。
 中1年の井上舜太君は小5の頃から週1、2回、松岡さんの指導を受けている。「教え方が分かりやすい。個人のスキルを上げるのに役立っている」と言う。学校の部活には専門の指導者がいない。自分たちが中心学年になったら「ここの練習で学んだことを練習に生かしたい」という。高1のMさんは学校では男子バスケット部のマネジャーをしている。心臓に持病があり、激しいプレーができないため、プレーヤーとして部活には入らなかったが、バスケットは続けたかったので、松岡さんの教室に中学生の頃から定期的に通っている。「前よりもうまくなった」のが何より嬉しい。将来は「管理栄養士になってスポーツ選手のサポートをしたい」と夢を抱く。

 NPO法人を取得したのは、万が一事故が発生した時の責任を取れるようにすることや「社会的な信用を高めるため」という理由がある。聴覚障害を抱えている子供も通っており、その保護者から「障がい者の指導もしてもらえませんか?」と声を掛けられた。スポーツ分野だけでなく、福祉分野へも活動を広げていくきっかけになった。
 「自分たちがプロとして教わったことを地域に還元する。今教わった子供たちが次の世代の子たちに種をまいていく。そんな循環ができることを目指しています」と松岡さんは夢を語っていた。

171017SEED05_035
 【プロフィール】まつおか・ひろゆき。1984年9月6日生まれ。第一鹿屋中、鹿児島工高、崇城大卒。11年から3シーズン、レノヴァ鹿児島でプレー。15年からNPO法人SEED理事長。

スポンサーサイト

テーマ:バスケットボール(日本) - ジャンル:スポーツ

コメント
この記事へのコメント
もっとも
「練習で全力を出さないヤツが、試合で全力が出せるわけがないだろう!」
学業や仕事でも言えますね.
我が子,中学時代,ノートや小テストに書いている字が雑で担任の先生に注意された際,「本番のテストの時にはちゃんと書きます」と答えたところ,「君は部活の練習でも手を抜いて,試合の時にはちゃんとやりますって言っているの?」と言われたそうです.
2017/10/21(土) 10:10:57 | URL | T.S. #5ZiVI.d.[ 編集]
Re: もっとも
 担任の先生、ものごとの本質を分かっている素晴らしい先生ですね!
2017/10/22(日) 05:52:23 | URL | 政純一郎 #-[ 編集]
劇団四季にいる友人が言っていました。「練習で120%出来るようにならないと、本番で100%を出せない」。
どの分野も同じですね。
2017/10/22(日) 23:23:48 | URL | ひゅう #-[ 編集]
Re: タイトルなし
コメント、ありがとうございます。「練習で全力を出さない人間が試合で全力が出せるわけがない」。このコメントに対する共感が多いですね。日頃の練習の大切さが思い知らされるひとことです。
2017/10/23(月) 06:02:25 | URL | 政純一郎 #-[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://spokago.blog68.fc2.com/tb.php/2373-eb1d154a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック