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風をつかまえた少女―第5章
選択―県総体第2日、女子百メートル
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 5月27日から、上村真弓の高校生活最後となる県高校総体が始まる。4月と5月初旬の県記録会の百、二百、四百メートルで自己ベストを更新した真弓は「南九州大会には絶対行く!」という気持ちで、それから約1カ月の調整期間を過ごした。

 「南九州は行けて当然と言い続けていました。それよりもワンランク上の高い目標を持つことを意識付けていました」。

 指導者・太田敬介は言う。実績のない真弓であるが、今季何かをつかんで大きく成長していることは、記録からも走りからもはっきり分かる。高校最後のシーズンを悔いなく、最高の思い出で終われるために、高い目標を持って努力することの大切さを太田は説いた。真弓も、その先のインターハイは、今ひとつ現実感が伴わなかったが、少なくとも南九州は遠い夢ではなくなっている。


※2004年に「スポーツかごんま」で連載した「風をつかまえた少女」をリメイクしてお届けします。


 ただ、本番を前にして悩みがあった。
 県総体4日間で真弓が出場可能なのは、百、二百、四百の四百と千六百メートルのリレーである。最も得意な種目である二百と、仲間と一緒に南九州を目指すリレー2種目は確実に出場するとして、百と四百をどうするかという選択で迷った。
 南九州に行ける上位6枠に入ることを考えた場合、4月の記録会で2位に入った四百も十分に可能性はあった。ただし、タイムレース決勝で1本しか走らなかった記録会とは違って、県総体は予選、準決勝、決勝の3本のレースを1日で走らなければならない。四百は、陸上種目の中で短距離の無酸素運動と、長距離の有酸素運動の両方の要素を含んだハード種目である。
 県総体は、初日に四百と四百リレーの予選がある。リレー予選を含む4本のレースをきっちり走ってしまうと、疲労や思わぬ障害を背負って残りの3日間、まともに走れなくなる可能性もあった。別の考え方もあって、初日で確実に南九州の出場権を取っておけば、あと3日間を楽な気持ちでレースに臨むこともできる。四百を走るべきか、回避すべきか、一度は「走らない」と決めたが、大会約1週間前に太田にどうすべきか相談した。

 厳しい選択であるが、これは指導者が強制すべき問題ではない。自分の意志で決断しなければ、意味がない。

 「それだけ迷うということは、出たい気持ちがあるからだろう。でも、その負担は大きいから覚悟しておけ」。

 太田のアドバイスだった。
 身長159センチ、体重46キロの真弓はスプリンターとしては小柄である。例えば04年、県、南九州の百、二百の頂点に立った上原奈菜(出水中央)の163センチ、54キロと比べると、パワー不足は否めない。百の勝負で勝てるような絶対的なスピードはないが、上下動のロスが少ない切れのある走りを冬季トレーニングで身につけた。校内のロードレース大会では、長距離選手をおさえて2位に入るなど、スタミナにも自信を持っている。レースの駆け引きと、スピードとスタミナで勝負できる二百が得意な所以である。
 二百よりも距離の長い四百も真弓の特長を生かせる種目なのだが、四百に向けた練習はこれまで一度もしていない。スタミナに自信があるとはいえ、四百で確実に勝つためにはそれ相応の準備が必要だった。

 「四百は大学に入ってからでも遅くない。今まで百や二百の練習をしてきたのだから、やってきたことがもったいない。四百出てつぶれてしまったら、百や二百がかわいそう」

 迷って色々な人にアドバイスを求めた中で、同じSCCの大坪緑コーチの言葉で、四百回避を決めた。

 27日の初日は四百を走らず、四百リレー一本にかけた。結果は予選9位で決勝に残れなかったが、28日は逆に吹っ切れた気持ちで百だけに集中することができた。百は予選で13秒21、準決勝で13秒30、そして決勝は13秒01の4位で見事、南九州の出場権を勝ち取った。付き添いでついていてくれた同級生・井上由梨佳と抱き合って喜んだ。

 「百を走るまでは、四百を走っておけば良かったかなって気持ちも正直ありました。でも百で南九州に行けて本当に良かったです。
 予選、準決勝は緊張していたけど、周りの声援を聞く余裕がありました。でも初めて走った決勝レースは緊張がピークに達して、声援も聞こえませんでした。結果が分かって、由梨佳が喜んでくれたのが何よりうれしくて、涙が出ました。支えてくれたみんなのおかげです」(真弓)。

 県総体での「引退」はなくなった。


※次回更新は12日(月)です。
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テーマ:陸上競技 - ジャンル:スポーツ

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