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風をつかまえた少女―第6章
初めての表彰台―女子二百メートル
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 県総体3日目の5月29日。この日は朝から梅雨の走りのような、気まぐれな空模様が続いた。雨が降ってしばらくすると、止んで日が差す。その繰り返しだった。湿度はうなぎ上りで、日が照ってくると競技場のトラックは、水蒸気でもやがかかった。

 大会も3日目となってくると、心身ともに疲労がたまってくる。最大の山場となったこの日、上村真弓が出場するのは、最も得意とする女子二百メートルの予選と準決勝、千六百メートルリレーの予選。質、量ともに最もハードなレースをこなさなければならない。加えてこの気まぐれな空と蒸し暑さである。技術に加えて、強靭な体力と精神力が試される。


※2004年に「スポーツかごんま」で連載した「風をつかまえた少女」をリメイクしてお届けします。



 「雨に濡れて、涼しくてちょうどいいですよ」。

 前日に百で南九州を決めて、真弓の気持ちにも余裕が出てきた。今までの力では、想像の世界でしかなかった大会への切符を手にした自信のようなものが芽生えていた。この日の二百のレースでも、ただガムシャラに走るのではなく、一本一本のレースにテーマを見つけて、クリアしていくことを自らに課した。
 これは指導者・太田敬介の持論でもある。一本一本のレースで何も考えずに全てを出しきってしまうのではなく、スタートから加速、そしてフィニッシュに至るまで、自分の中に冷静に走りを分析する目を持つ。そうすることで、より高いステップへ自らを成長させることができる。

 二百予選は「かなり流して走った」(真弓)。ハードな一日を乗り切るためには、そういうレースの組み立ても大事な要素である。逆に予選を全力で走らなければ突破できないような実力では、上の大会に進むことはできない。
 予選は11組まであって各組の1位と2位以下のプラス13人が午後の準決勝に進める。予選10組の真弓は組1位を確実にすると「こんなに抜いてもいいのかな」と思うほど、気持ち良くリラックスした走りで、予選を通過した。タイムは27秒06。県記録会の27秒01には及ばないが、余力を残した状態でもこれだけの走りができるようになった。
 午後の準決勝は3組まであって、各組2位までと3位以下のプラス2人が最終日の決勝に進む。真弓は第2組の第4レーン。外側に県記録会2位の松下葵(松陽)がいて、真弓の狙いは「松下さんに続いて2位をキープ」だったが、コーナーを曲がって自分が一番前にいることを確認すると、一気にトップスピードに乗った。走りながら気をつけていたことは、コーナーでなるたけ、外に膨らまずに内側に絞っていくように走ること。そのためにはコーナーでやや左肩を前に突き出すような意識で走ると、スムーズに曲がれる。二百はコーナーを曲がってからが勝負の醍醐味で、カーブでためていたものを一気に爆発させて、直線に出た時点でスピードに乗ってゴールへ駆け抜ける。以上のような、太田からアドバイスされた走りのイメージを忠実に実行した。
 百の時は緊張して、自分の走りを振り返る余裕はなかったが、二百では可能な限り太田のアドバイスや自分で描いたイメージを再現するような走りを心がけた。準決勝の記録は26秒38。上原奈菜(出水中央)の25秒87に次ぐ2位の記録で決勝進出者8人に残った。

 女子二百メートル決勝のレースは30日の午前11時20分がスタート時刻。最終日はほとんどが決勝種目で、それまでの3日間高校生アスリートでごった返していたアップ場のバックスタンド下の雨天走路も、人影が少なくなっている。そのかわり、各種目の予選を勝ち抜いたつわものたちが今や遅しと出番を待つ独特の緊迫感が漂っていた。

 「誰もが経験できない緊張感を楽しんでこい!」。

 太田のアドバイスだった。千六百リレーは予選落ちだったため、最終日に真弓が走るのはこの決勝レース一本である。心身とも疲労はピークに達し、初めて経験する空間に、不安と緊張も極限に達しようとしていた。ただ真弓は「ある程度緊張していたほうがいい走りができる」とも自己分析している。「実は、4日間ずっと緊張のしっぱなしでした」が、緊張していた方が、逆に今やるべきことに集中できていい結果につながる。スタートまでの待ち時間の間、真弓が考えていたのはスタートで出遅れないことと、コーナーの走り、そして太田に言われた「緊張感を楽しむ」ことだけだった。

 真弓は第5レーン。スタートからコーナーの走りはうまくいったが、「残り100メートルは、何でこんなに走れないんだろうと思うぐらい走れませんでした」。走りをコントロールする余裕がない。右に左に大きく揺れながらも、必死の形相でただゴールだけを見ていた。第3レーン・松下、第4レーン・大庵樹里(出水)、第6レーン・上原…上原と松下に負けていたことは分かっていたが、果たして何位になったのか、ゴールしてから電光掲示板を見るまで分からなかった。

 「3 カンムラマユミ 26・43」

 電光掲示板は真弓が、陸上を始めてから初めて3位以内の表彰台に上がったことを告げていた。4位の大庵とは、わずか0・01秒差。3年生の意地が少しだけ、1年生を上回ったのかもしれない。初めて上った表彰台で、ひとつの山を乗り越えた自信と喜びに満ちた笑顔があふれていた。

 「コーナーを曲がったところで、由梨佳が『真弓、ファイト!』って言ってくれたのが聞こえました。それがなかったら表彰台には上がれなかったかもしれません」。

 二百決勝の時、それまでスタートやゴールでずっと付き添っていた井上由梨佳は、走り高跳びに出場していて、フィールドの中にいた。競技中であるにも関わらず、応援してくれた親友のエールが、2種目目の南九州と初めての表彰台に、最後のひと踏ん張りをもたらしてくれた。真弓の頑張りに応えるように、由梨佳も走り高跳びで1メートル45の自己新記録を出して4位に入った。2人そろって、インターハイへの最終ラウンドへの挑戦権を得た。


※次回の更新は10月19日(月)です。
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テーマ:陸上競技 - ジャンル:スポーツ

コメント
この記事へのコメント
陸上競技
 10月9日から始まった「九州陸上新人大会(沖縄市)」の結果が掲載されていません。どうだったのでしょうか?いつもは、即日または翌日にはでていたのですが・・・
 野球の記事の関係だったでしょうか?
できれば、早く乗せてほしいと思っています。よろしくお願いします。 太郎
2009/10/13(火) 00:25:31 | URL | 陸上太郎 #-[ 編集]
了解しました!
近日中にアップできるよう、ネタを仕込んでおきます!!v-218
2009/10/13(火) 11:27:26 | URL | 管理人 #hiiZJbic[ 編集]
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