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風をつかまえた少女―第9章―
第9章 短冊に込めた願い―南九州大会女子二百メートル
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 最終日の6月20日は、いよいよ台風6号が接近して、競技開始時刻が全て30分早められた。上村真弓のインターハイへ、最後の関門となる女子二百メートル決勝は午前10時20分がスタートである。

 レース前の朝、ちょっとしたハプニングがあった。
 「上村さん、携帯なくしちゃったらしいんです。太田さんに連絡とりたいので、携帯を貸していただけませんか?」。鶴丸陸上部の美坂里徳が競技場入りしたばかりの筆者のもとにやってきた。大一番を前に普通の心理状態でいられない様子がうかがえる。緊張が極限にまで達したからか。今さらアドバイスを受けたところで何が変わるわけでもないが、頼れる指導者の声を聞いて安心したかったのだろう。しかし、筆者は競技場からアップ場まで携帯を届けに向かう間、「これで余計なプレッシャーが吹っ飛ぶから、かえっていいのでは」と思った。
 アップ場で無事、太田と連絡が取れた。鹿児島で予定されていた別の陸上大会が台風で延期となったため、太田敬介をはじめSCCのメンバー数人が車で宮崎までやってくるという。アップ中に太田がやってきて、スタートダッシュとコーナーから直線の走りをもう一度チェックしてもらった。何にもかえ難い「援軍」である。台風という逆境さえも真弓に追い風をもたらしているようだ。また鶴丸陸上部のチームメートも応援に駆けつけた。青山えりか、内西幸子、大石沙貴、大工明夏、栫井俊介の3年生5人がはるばる宮崎までやってきた。最終コールを終えて、競技場に向かう際に、懐かしく、心強い仲間と再会できた。

 「勝ちに行ってくるよ」。

 今まで真弓は、そんな強気な言葉を人に言うことはなかった。百のときは周囲の選手に威圧されていたが、今や「自分のほうから相手を威嚇してやろう」とさえ思えるようになった。決勝進出者は8人。このうちインターハイに行けるのは6人。準決勝のタイムランキングでは7位だから最低でも1人は蹴落とさないと、全国への切符は手にできない。あからさまに相手の邪魔をすることはできないが、直前のアップの動きや表情で相手を萎縮させることも、水面下の駆け引きなのである。

 午前10時20分。風は感じたが、雨は降っていない。ゴール付近で向かい風を感じるということは選手にとって絶好の追い風となる。
 真弓は第7コース。スタートからコーナーの間、応援にやってきた同級生と、県総体と同じくフィールドで走り高跳びの競技中だった由梨佳の声援をしっかり聞いて、やや左肩を前に突き出すような感じでバランスを保ちながら、加速した。直線に出て一気に勝負をかける。走っているレーンが外側にあるため、終盤はどうしても後から追いかけてくる選手がかけてくるプレッシャーとの勝負である。数人の選手に前に出られたが、焦らず、自分の走りで一気にゴールを駆け抜けた。
 順位は6位。タイムは25秒96。高校2年の新人戦を走れなかった少女が、最後の夏に追い風をつかまえて、高校生アスリートの最高峰への切符をつかんだ。

 宮崎入りした16日に、駅のそばのデパートで七夕飾りがあった。景気付けにみんなでそれぞれに短冊に願いを書くことになった。

 「百メートルで12秒台、二百メートルで25秒台を出して、インターハイに行けますように」。

 真弓はそう短冊に書き記した。願いは現実のものとなった。


※次回更新は11月9日(月)です。
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テーマ:陸上競技 - ジャンル:スポーツ

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