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風をつかまえた少女―第10章―
腰痛との闘い―インターハイ女子二百メートル
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 上村真弓は、スプリンターとして大きな成長を遂げ、県総体、南九州大会を突破してインターハイ出場を決めた。陸上は8月2―6日に島根県出雲市の県立浜山公園陸上競技場であった。真弓が出場した女子二百メートルは5日に予選、準決勝、決勝の全レースを実施した。予選第6組2レーンの真弓は26秒44で8人中8位。高校生活最初にして最後となったインターハイは、この1本のレースで幕を下ろした。
 「周りは自分よりも速い人ばかりだけど、何とか食らいついて、もう一度25秒台を出して、自己ベスト記録を更新したい」。

 初めてのインターハイに向けて掲げた目標だった。南九州からインターハイまでの調整期間は約1カ月半。十分に練習して、本番を迎えるはずだったが、思わぬ試練が待っていた。「腰痛」である。南九州のあたりから、全力で走った後や、立ったり座ったりするときに、痛みを感じた。主な原因は「疲労の蓄積」だった。背筋が硬直して腰を圧迫していた。ここまで技術やスピードの面で大きく成長し、高校生アスリートの最高峰に到達した真弓だったが、そのスピードに耐えられる体を作るための練習量をこなすことができなかった。車に例えれば、高性能の「エンジン」を積みこむことはできたが、そのスピードを維持できるだけの「車体」を作ることができなかった。

 「6月末に南九州高校総体、7月頭に県選手権に出場し、それ以降腰痛のため全く走れなくなりました。約1ケ月、ストレッチすらまともに出来ないという状況で、でもなんとか1本走らせてあげたいと思いながら調整を重ねてきました。今回はスタートラインに立ちそしてゴール出来ただけでも100点です。昨年の冬から、技術的な部分、トップスピードの強化という点では上手く練習が出来、大幅にレベルアップできた選手ですが、ベースとなる練習量という点で、他の学校の4分の1(もしくはそれ以下)ほどしかできませんでした。県高校総体、南九州高校総体、一番注意してきたのは『ケガ』でしたが、やはり負担は大きかったようです。僕の師匠宮崎博史氏がよく言っていた言葉『カミソリの切れに、ナタの強さを持った選手になれ』身に染みます」

 指導者・太田敬介は、自身のホームページの日記に真弓についてこう書き記している。通常ならこの1ケ月半の間で一度は、体内に乳酸がたまるような徹底した負荷をかける練習をいれるのだが、腰の状態が悪化する一方ではそれもできない。休養をとりたいのだが、1、2日練習を休むと、走っていない不安、練習できていない不安が抜けずにまた練習を始め、疲労を貯め込む。その悪循環から抜け出せなかった。鹿児島を出発する約1週間前からは整骨院にも通って、電気治療やマッサージ、テーピングも施したが、対処療法では最早完治しなかった。2日に島根入りして、ほとんどジョギングやストレッチ程度の練習しかできなかったが、本番前日の4日にはそれすらままならなくなって、地元の整骨院に再度行かざるを得なくなった。インターハイの会場では専門のトレーナー場がサービスでついていたため、5日は朝一番で会場入りして、マッサージ、電気治療、テーピングを受けた。

 「痛みを我慢するんじゃなくて、走ることに集中しろ」。当日の朝、太田が電話で真弓に与えた最後のアドバイスだった。泣いても笑っても、これが高校最後のレースである。痛みの対処は思いつく限りの処置を施した以上、あとはレースに集中することで、痛みを忘却の彼方に消し去ることしかなかった。幸い、直前のアップでは痛みを感じることなく調整することができた。1本ぐらいなら、全力で走れそうである。

 女子二百予選スタートは午前10時。「気象は晴れ。気温32・5度。湿度65パーセント。東北東の風1・5メートル」。場内アナウンスがスタート時の気象を告げていた。灼熱の太陽が照りつける中で、全国各地区の予選を勝ち抜いた女子トップスプリンター65人によるレースが繰り広げられた。真弓は「他の選手はカボチャかピーマン」と思って、ひたすら自分の走りのみに集中した。

 予選第6組がスタートしてからのことは鮮明に覚えているという。スタート付近で鹿児島から応援に駆け付けた井上由梨佳と美坂里徳の声が聞こえた。走りながら、大勢の人から寄せられた励ましのメールや言葉が走馬灯のように頭を巡った。第2レーンは出走8人中、一番内側だった。前にいる7人を追いかけるようにスタートして、必死で食らいつく。直線に入ってからの表情は、苦悶にゆがんでいた。明らかに調整不足と分かる走りで、伸びも切れもないが、それでも全身全霊を振り絞って、ゴールの白線に一歩でも近づくことをやめなかった。
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 「結果は自己ベストじゃなかったけど、あとで『最後でもう少し粘ればよかった』とか『もうちょっとできたんじゃないか』っていう思いはありません」

 「25秒台を出して、自己ベストを更新する」という目標は達成できなかったが、置かれた状況の中で今までの全てが凝縮することができた「26秒44」間だった。「安堵感」「達成感」の涙はあったが、「悔し涙」はなかった。

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※次回更新は11月16日(月)です。いよいよフィナーレとなります。
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テーマ:陸上競技 - ジャンル:スポーツ

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