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沖縄が見る夢―その1
この「港」から羽ばたけ!
興南


  「今でこそ住宅地だけど、あの頃のこの辺は家とかほとんどなくて、山とか原っぱだったよなぁ」
 興南・我喜屋優監督が感慨深げに振り返った。1968年夏、興南が沖縄勢初のベスト4に進出したとき、我喜屋はそのチームの外野手で主将だった。高校卒業後、社会人の大昭和製紙で選手、監督として活躍。全国制覇も経験している。その我喜屋が昨年、38年ぶりに地元に戻り、監督として母校を24年ぶりとなる甲子園に導いた。


 ※野球雑誌「ホームラン」(廣済堂出版)の08年6+7月号に「沖縄が見る夢」と題して沖縄のチーム4校を取材した原稿を加筆してお届けします。
 「自分の仕事は興南という『港』を出て大きく羽ばたいていく人材を育てること」

 我喜屋は語る。沖縄で生まれ育ち、本土の社会人野球でもまれた知将が、沖縄に新しい風をもたらそうとしている。

 100人近い部員たちが、縦隊に並び、グラウンドを大回りで周回しながら、腿上げ走、腕回し走、ジャンプ走…陸上選手がやるような基礎ドリルのメニューをこなしている。興南の練習はボールを握って「野球」の練習を始める前に、「アスリート」としての機能を磨くことに時間を割く。「メニューだけならいくらでも考えられますよ」と我喜屋。中学までは陸上で棒高跳びをしていた異色の経歴と大昭和製紙時代、雪の北海道で「雪上ノック」を編み出したアイディアマンだけあって、練習メニューの引き出しは無数に持っている。

 「(北海道時代は)環境を言い訳にしたくなかったらからね。ただ漠然とやらせるだけじゃない。ダッシュひとつにしても走塁と守備ではやり方が違う。一つ一つの動きが野球の何につながるのか、考えながらやらせてます」。

 就任1年目の07年夏は、接戦をものにして決勝まで勝ち上がった。浦添商との決勝戦は、延長11回1―1の時点で雷雨のため決着がつかず、沖縄史上初の決勝再試合というドラマチックな展開に。再試合を2―0で競り勝ち、24年ぶりの甲子園をつかんだ。
 この試合は、社会人でもまれた我喜屋独特のさい配がカギになった。先発は1年生の石川清太を起用。前日に投げた3年生エースの幸喜竜一でも、2年生左腕の當山和人でもなく、それまで公式戦で1試合も投げていない1年生右腕を大一番で投げさせたのは「これまで浦添商に大差で負けていたことからして、まともにいっても勝算はない。うちの投手陣の中で誰が一番大舞台で四死球を出さないか、考えたら石川が浮かんだから」と我喜屋。「3回持ってくれればいい」と思っていた石川が7回途中まで無失点の好投でリズムを作り、終わってみれば當山とのリレーで完封勝ちだった。破れかぶれでイチかバチかにかけたわけではない。チーム1人1人の力と、相手の戦力とを詳細に検討した結論が吉と出た。1人1人の力を最大限に引き出し、少しでも勝利の可能性の高い選択をする。社会人時代に磨いた我喜屋の勝負勘が凝縮された一戦だった。

 野球で結果を残すこと以上に我喜屋がこだわっていることがある。「練習の仕方も大きく変わったけど、何より日常生活の細かいことを厳しく指導されます」と當山。大会前は決してV候補の本命に挙げられたわけではなかった07年のチームが沖縄を制したのは「ゴミが落ちていたら拾う、就寝、睡眠、起床などの時間を守る、日常生活の細かいことに気づき、決められたことを守ろうとする姿勢が最後まで貫かれたから」と分析する。我喜屋の指導理念は「スポーツ」という言葉に対する独自の考え方にまで至る。

 「『スポーツ』って言葉は元々英語の『disport』からきている。『dis』は『離れる』、『port』は『港』でしょう。生まれ育った『港』を離れ、大きく変化し成長することにスポーツの本質がある」

 野球に留まらず、日常生活のあらゆる面にまで気を配って指導するのは、興南を卒業した後にこそ本当の勝負があるという我喜屋の体験に基づく信念があるからだ。

 レギュラー捕手の宮里哲平主将(3年)をはじめ、當山、石川ら前チームでベンチ入りした経験者を豊富に擁する今チームだが、07年秋は小録に1回戦敗退、08年春は準々決勝で首里に2―5で競り負け、もうひとつ殻を破れないでいる。夏の甲子園の影響か、50人以上の新1年生が入部し、部内は活気付く。チーム内の競争も激しくなってきた。07年の甲子園が本当に「古豪復活」なのか、それとも単なる勢いだったのか、08年の夏はその真価を問われることになる。宮里主将は「秋は心のどこかに『どうせ勝てるだろう』と油断があった。そうならないために冬からみんなで話し合ってやってきた。1人1人やるべきことをしっかり果たして夏に挑みたい」と意気込みを語っていた。


追記 興南は09年秋の沖縄を制し、九州大会では決勝で嘉手納との沖縄対決に敗れたものの準優勝。順当に古豪復活の道のりを歩んでいる。
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テーマ:野球全般 - ジャンル:スポーツ

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