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沖縄が見る夢―その3
宿命のライバル
「決着」つける夏への想い
浦添商


 浦添商のナインはセンバツの沖縄尚学の試合を全試合テレビ観戦したという。郷土の代表を素直に応援するため、いずれ決着をつける夏に向けてライバルの野球を分析・研究するため、自分たちが出られなかった「悔しさ」を目に焼き付けるため…皆一様に「悔しさ」を感じつつも、それぞれの思いを胸に尚学の快進撃を見守っていた。
 「明徳義塾に勝った試合を見たとき、尚学が優勝するんじゃないかって思いました。うまく言えないけど、何が何でも勝ってやるんだという『ウチナー(沖縄)魂』みたいなものを感じました」
 捕手の山城一樹(3年)は言う。
 浦商と尚学。全体的にレベルが高いといわれる沖縄の中でも、特に抜きん出ているといわれる2強である。尚学が一足先に全国制覇してブレイクするのを傍目にみながら、浦商は着々と夏への準備を進めている。2008年の夏の沖縄は、この「宿命のライバル」同士の決着がどうなるのかも、大きな見所のひとつだ。


※野球雑誌「ホームラン」(廣済堂出版)の08年6+7月号に「沖縄が見る夢」と題して沖縄のチーム4校を取材した原稿を加筆してお届けします。

・伊波と東浜

 浦商の伊波翔悟(3年)と尚学の東浜巨。お互い下級生の頃から投手陣の中心として活躍しており、何かと比較されることが多い。どちらも直球の最速は140キロ台後半で、多彩な変化球を持ち、中学時代から注目された存在だった。
 ポニーリーグの宜野湾ポニーズに所属していた伊波は、中学時代で直球の最速135キロをマークし、硬式の少年野球ではこの世代のNO1投手と目されていた。ちなみに、与勝中のエース東浜は軟式のNO1投手だった。
 174センチ、72キロと投手としては決して大きくはないが、小学4年で野球を始めた頃から投げていた生粋の投手である。小さい頃からボールに慣れ親しんだおかげで、肩の強さは強肩ぞろいの浦商ナインの中でも群を抜く。バッテリーを組む山城は、入部して最初に伊波に出会ったことを鮮明に覚えている。
 「僕も肩には自信があったのですが、横に並んでキャッチボールをしたときに、これはかなりやばいと思いました」

 1年秋からエース番号を背負う両者の直接対決は、2年の春、夏、秋で3度ある。一度目は0―2で敗れた。2度目は夏の準決勝で対戦。2―2で迎えた七回の攻撃で犠打を決めた東浜が脱水症状を起して無念の途中降板となった。9回土壇場で同点に追いつかれるも、延長十一回を投げ切り、対尚学戦の初白星を挙げた。
 お互い中心学年となって最初の秋、3回戦で対戦したときは「3回戦で見るのは惜しい」と関係者の間で評判になった一戦だった。七回までお互いに譲らず無得点。ところが七回表に尚学の先頭打者・普天間有司に本塁打を浴びる。二死後に2本の二塁打でさらに1点を失い、この2点が決勝点となった。
 ライバルとして「意識している」という東浜巨との投げ合い。再三、走者を背負いながらも「打者だけに集中した」と要所を締めてきた伊波だったが、終盤に球威が落ちたところを痛打された。「1球の大切さをこの大会であらためて感じた。冬場に走り込んで終盤でもスタミナが落ちないようにしたい」と話す伊波は「来年の夏、絶対この借りは返す」と誓った。

 翌日の地元紙・沖縄タイムスに載った伊波のコメントである。この直接対決を制した尚学が沖縄を制し、九州準優勝でセンバツをつかみ、センバツで全国を制した。

 センバツの尚学の戦いぶりを観察しながら山城は「右打者に対してもしっかりツーシームが投げられて、内角を攻められるようになった」と投球術の幅が広がった東浜の成長を感じた。伊波は尚学の全試合をビデオ録画した。甲子園で一戦一戦成長していく姿を感じつつも「倒しがいがあります。燃えてきますよ」と闘争心に火がついた。
 春の試合解禁から「練習試合から勝つことにこだわり続けた」(伊波)。春の県大会決勝では、昨秋の九州大会出場の中部商に対して、序盤から直球、カットボール、スライダーと持ち球をテンポ良く投げ込んで、散発5安打12奪三振と強打の中部商打線につけ入るスキを与えなかった。
 春の九州大会では、尚学が初戦で敗れたのに対して、浦商は並み居る強豪を撃破して決勝進出。準決勝では、センバツ出場の鹿児島工を伊波が6安打完封した。福岡工との決勝戦は、0―2で敗れたが、三回からリリーフした伊波は7イニングを2安打無失点に封じた。沖縄の野球は尚学だけじゃない、浦商もあることを県外にも存分にアピールした九州大会だった。

・身体能力はNO1

 「この冬には打てるチーム作りを目指して、パワーアップと体を大きくすることにこだわってやってきました」と神谷嘉宗監督。今年1月の高校野球部競技大会で総合優勝を勝ち取った。冬場に、あらゆる面でのレベルアップを目指して徹底して鍛え上げた成果を発揮した。投げる、走る、打つ…身体能力が高いといわれる沖縄のチームの中でもNO1の力を持っていることを示した。
 1年生が入部して部員は100人を超えた。練習を始める前には鉄の鎖を縄跳び代わりにして、前に30回、後ろに30回跳んでから、アップに入る。清峰(長崎)が肩関節やインナーマッスルの強化でやっていた練習を参考に取り入れたものだが、重い鉄の鎖を使うことで、自然とパワーもつけてしまおうというわけである。冬場のトレーニング期間は終わったが、体を作るメニューは継続して組み込んでいる。練習後には全員で豆乳を飲む。

・「ラストチャンス」にかける

 取材に訪れた日はレギュラーバッティングをやっていた。伊波、上地時正(3年)、島根博士(同)の3投手陣が交互に投げ、走者もつけて各打者と真剣勝負する。
 伊波だけでなく、この春には先発を任せられるほどに成長した上地は、最速142キロの球威がある。サイドスローの島根も135キロの直球と多彩な変化球を持つ。目を引くのは投手陣ばかりでない。主砲の山城、宮平卓(3年)、當山加寿馬(同)、仲間常治(同)と「ホームランを打てる打者」(神谷監督)がそろっており、甘く入れば伊波のボールさえも外野の頭を越す。「(相手チームよりも)うちのチームの打者を抑えるほうが難しいかもしれませんね」と伊波。チーム内での投手と打者の真剣勝負がハイレベルで、間近で見ていると公式戦さながらの迫力がある。
 この日、打者のテーマは「低めの変化球を見極めること」だった。九州大会決勝では、福岡工のエース三嶋一輝(3年)の低めに切れていくスライダーを攻略できなかった。低めのボールはストライクでも見逃し、自分のヒットゾーンに来るボールだけを確実に打ち返す意識を徹底させていた。レギュラーバッティングの後は、ロングティー形式で、正面から緩いボールを打つ練習を繰り返していた。速いボールだけでなく、緩急どちらのボールでも確実に対応できる力を身につけるのが狙いだ。
 春の九州準優勝で、自分たちの力が上のレベルでも通用する手ごたえはつかんだ。しかし、福岡工に完封負けしたことで、ボールの見極め、バントなどつなぎの精度を上げることなど、まだまだやるべきことがあることを再認識できた。尚学以外にも倒すべきレベルの高い相手が今年の沖縄はひしめいている。「九州大会はいい経験になりました。夏は1回戦からレベルが高くて気が抜けない。1つ1つのプレーにこだわってラストチャンスにかけたい」と伊波。主砲・山城は「甲子園はテレビで見る場所じゃなくて、自分たちが行く場所。この夏は自分たちが『見られる』立場になりたいですね」と意欲を燃やしていた。


 追記:08年夏、浦添商は決勝でセンバツ優勝の沖縄尚学を下して甲子園出場を果たし、夏の甲子園でもベスト4と好成績を残した。沖縄のレベルの高さを証明した出来事だった。
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テーマ:野球全般 - ジャンル:スポーツ

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