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「心身一如」への道・第1回
己の心を「客観的」に知る
伊集院・山下雄也投手(3年)の場合

心身一如第1回01_035

 「心と体のコンディショニング 心身一如」

 鹿児島県内を中心に、個人でスポーツトレーナーを営む高司譲の名詞にこんなフレーズがある。野球に限らず、スポーツ選手が持っている能力を最大限に発揮し、最高のパフォーマンスができるためには、心(メンタル)と身体(フィジカル)、両面のコンディショニングが欠かせない。高司は、仏教用語でいう「心身一如」な状態をいかに作り上げるかをテーマにトレーナー活動を行っている。第1回は、公式戦で大事な場面に登板し、力を発揮できずに敗戦投手になってしまった投手の例を取り上げる。(敬称略)


※きょうから始まる新連載です。スポーツトレーナー・高司さんの活動を通じて、スポーツ選手の心と身体の問題についていろんな切り口で定期的に伝えていきます。
4月13日(金)伊集院高校にて

 伊集院はこの春の県大会4回戦で優勝した鹿児島城西に敗れた。序盤リードされるも、我慢強く追い上げ、八回裏で同点に追いつき、「サヨナラ勝ち」へのムードが高まった時、3番手でリリーフした山下は、1人で試合を台無しにしてしまった。


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 「表情がこわばっていて、完全に『浮いた』状態になっていた」
 高司はそう分析する。心を落ち着かせ、1人で野球をしないように、投球前には必ず周りを見て野手とアイコンタクトをとるようにアドバイスしていたが、全くできていなかった。本人は「まず自分が抑えてからじゃないと、周りが見られなかった」という。
 チームに10数人投手がいる中で、山下がエース番号を背負っているのは「魅力のあるボールを投げる力がある。けん制やフィールディングなど運動能力もあり、投手能力が高い」という点を監督の内野公貴が評価しているからだ。この夏に伊集院が頂点をとるために、山下の持っている力を何とか開花させたい。高司はまず、エゴグラムを作成して山下の「心」の状態を客観的に分析することから始めた。

・「エゴグラム」の活用
心身一如第1回02_035

 「エゴグラム」とは、人間の心を「批判的な親の心(CP)」「保護者的な親の心(NP)」「大人の心(A)」「自由な子供の心(FC)」「順応した子供の心(AC)」に分類し、この5つの心の動きの強さを数値化したグラフにして、その人の心のエネルギーの強弱を分析する。例えばCPの強い人間は確固たる強い信念を持っているが、強すぎると尊大で独りよがりにつながる。FCが強いのは、明るく無邪気で自由な子供の心を持っているが、わがまま、自分勝手で他者への配慮に欠けるという側面を持つ。それぞれの要素は高い方が良いとか、低いから悪いというのではなく、その人の性格や人との関わり方を表すものである。
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 今回、高司が山下に実施したのは、「他人の言うことに左右されやすい」「いつも楽しめることを探している」「良いと思うことは貫く」など53のチェック項目に対して「はい」「どちらでもない」「いいえ」のあてはまるものに○をつけ、所定の計算方法を用いて、CP、NP、A、FC、ACの値を数値化する。この数値に基づいてまずは山下の心理的な傾向を分析してみた。山下の場合、ACが平均値より高い一方で、CPとAの値が低いという傾向がみられた。
 ACすなわち、従順な子供の心を持っている。素直であり、仲間からも好かれる反面、人の言いなりになりがちで主体性に欠けるところがある。CPの低さは、ものごとに対する取り組みが、適当になりがちで、責任感や負けん気の弱さにつながっている。Aは事実に基づいてものごとを判断する心だが、山下の場合は何か事が起こった時、混乱をきたしやすく、考えと行動がずれて、冷静な判断ができなくなる。鹿城西戦のマウンドはまさにその典型だろう。問題解決力が低く、同じ失敗を繰り返してしまうのは、昨夏、昨秋、今春と県大会の大事な場面でも見られた傾向だった。

・問題解決のための5つの取り組み
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 以上のような心理分析を踏まえて、高司は山下に対して問題を解決し、自分で自分を成長させるための5つの取り組みを示した。
① 計画を立てて、苦手なトレーニングを継続する
② 日誌をつける。自分を振り返り、毎日の目標が達成できたか、箇条書きにする
③ 整理整頓。身の回りのことは自分でする
④ 投手陣のリーダーとしての自覚を持つ
⑤ 土壇場のイメージトレーニング


 この5つは、特に山下のCPとAを上げるために必要な取り組みである。
 山下は「長距離走が苦手」だという。練習の中で、長い距離を走るメニューは毎日でも取り入れたい。その取り組みの中で育まれるのは、苦手なことから目をそむけず、自分に対する厳しさ、困難克服の力などだ。走るときは誰かと一緒ではなく、極力1人でやることで、依存心を絶ち切る。
 日誌をつける際は、技術、身体、心の3分野に分けて、それぞれの目標に対して、達成できたかどうかを箇条書きにする。そうすることで自分は今何ができて、何ができていないのか、冷静に分析し、自分自身と向き合う習慣を身につけることができる。
 日常生活を見直すことにも、自分を向上させるヒントが隠されている。自分の身の回りのこと、例えば食事の後の皿洗いとか、洗濯をするなど、実家にいて何気なく親にやってもらっていたことを、一人暮らしを始めるつもりで、自分でやってみることで、自立心を養う。
 伊集院には2、3年生で15人ほどの投手陣がいる。これまで3年生の大迫琢真や宮内彰吾が引っ張る存在で、山下はそれについていくタイプだった。これからは山下自身がリーダーとしての自覚を持ち、ミーティングでも積極的に自分から発言することなどを心掛けるようにする。土壇場のイメージトレーニングは、無死満塁の場面でリリーフするといったようなシーンを常日頃からイメージしておくことで、実際にそんな場面に立っても動じないメンタルの強さを訓練する。

 高司は、エゴグラムの分析をもとに山下と1対1で会話をしながら、以上のような改善策を示していった。山下は「今まで何となく思っていたことが、具体的に分析できて良かったです。自分で自分を成長させて、夏はチームの期待に応えられる投手になりたい」と話す。

・「結果」が導くもの

 「最後の場面は見守るしかなかった」
 監督の内野公貴が振り返る。鹿城西戦の九回、ストライクが入らず四球を連発し、痛打された場面で、指揮官は今後のことも見据えた上で、投手交代などの手は打たず見守ろうと腹をくくった。
 鹿城西戦の4日前にあった3回戦の国分戦で、山下は先発しながらやはり四死球連発、痛打のパターンで6失点を喫し、三回で降板している。鹿城西戦2日前のブルペンでは修正ができて、ブルペンでは良い状態になっていたが、前日の伊集院球場での実戦形式練習では、再び四死球を連発。状態が良ければ先発も考えていたが、この状態で先発は任せられない。幸い背番号11の宮内、国分戦で好リリーフした大迫が良かったので「先発・宮内、リリーフ・大迫」の図式はできていたが、「鹿城西に勝つためには山下の力がどこかで必要になってくる」(内野)と考えていた。思った通り、鹿城西戦の終盤でその場面が回ってきたが、思い描いた結果にはならなかった。
 「本人もメンタルが弱いと思っているし、周りもそう言う。でも本当にそうなんだろうか?」
 内野はあえて疑問を投げかける。もう一歩踏み込んで考えると「結果が出ていないから、そうだと思い込んでいる部分もあるんじゃないだろうか?」。高司が敗戦の3日後、全選手に書かせた試合中のメンタルチェックがある。試合中の「目標設定」「興奮度」「心配度」「コントロール度」「不安度」「集中度」の10段階で自己評価する。山下は「目標設定」「興奮度」10、「集中度」8、「心配度」「コントロール度」「不安度」を5としていた。ふがいない投球内容だったが、決して自分の状態が悪かったとは言わず、「自分の心と身体の状態がバラバラだった」と分析している。
 「心」と「身体」の問題について、高司という専門家の力も借り、前述したようなアプローチを継続できるかが、カギになる。野球の「技術」を教える監督としては、技術的なアプローチからメンタル面も改善できるのではとも考える。純然たるオーバースローだった山下に、リリースが安定しやすいスリークオーター気味にするフォーム改造にも大会後取り組み始めた。上手投げは、角度をつけたボールが投げられるというメリットがある反面、リリースポイントが安定せず、制球難に陥るというデメリットがある。
 「リリースの安定」を目指してフォーム改造に取り組み、4月14、15日で熊本遠征し文徳、熊本国府戦に山下を先発起用した。文徳戦は1―2で惜敗、国府戦は2―2の九回でサヨナラ負けと勝利にはつながらなかったが「これまでとは明らかに違った。安定しなかった制球が、まだアバウトだけど狙ったところに投げられるようになった」(内野)と成果はあった。「あとは精度をあげていく」ことで本当の成長が期待できるだろう。

 「選手は『心』『技』『体』それぞれの輪の重なる部分で、野球の勝負をする。それぞれの輪を大きくしながら、その重なる部分の成長をどう仕掛けていくかが指導者の仕事。あとは本人がその気になって取り組むかどうか」

 夏の大会まで約3カ月。これから山下がどう変化するか、注目したいところである。

■プロフィール
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高司譲(たかし・ゆずる)
 1973年生まれ。鹿児島中央高、筑波大体育専門学群、同大学院体育研究科卒。卒業後、社会人野球チームのコンディショニングコーチ、トレーナー派遣業の会社で勤務した後、2004年9月、鹿児島に帰郷し個人でスポーツトレーナー業を始める。フィジカルファクトリー代表。
資格:日本体育協会公認アスレティックトレーナー、健康運動指導士、心理カウンセラー
所属学会など:日本スポーツ心理学会、日本トレーニング指導者協会
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テーマ:野球 - ジャンル:スポーツ

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