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心身一如への道・第2回
心と身体、使い方の「基本」を学ぶ
鹿児島中央高野球部1年生の場合

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 「心と体のコンディショニング 心身一如」

 鹿児島県内を中心に、個人でスポーツトレーナーを営む高司譲の名詞にこんなフレーズが銘打ってある。野球に限らず、スポーツ選手が持っている能力を最大限に発揮し、最高のパフォーマンスができるためには、心(メンタル)と体(フィジカル)、両面のコンディショニングが欠かせない。高司は、仏教用語でいう「心身一如」な状態をいかに作り上げるかをテーマにトレーナー活動を行っている。第2回は新1年生に対する指導を取り上げる。(敬称略)


※スポーツトレーナー・高司さんの活動を通じて、スポーツ選手の心と身体の問題についていろんな切り口で定期的に伝えていきます。



2012年5月28日(月)同校グラウンドにて

 スポーツの部活動に入部したばかりの1年生がやることは「身体作り」だろう。筆者も20数年前、中学で初めて野球部に入った頃、なかなかボールを触らせてもらえず、きつい体力作りばかりが続いた日々を思い出す。スポーツをする上で、「身体」はベースにあるものだ。高司は身体づくりと同様に、「意識」や「感覚」といったメンタル的な要素にも、覚えておくべきベースになるものがあると考える。

・己の身体の特徴を知る
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 高司がトレーニングを担当しているチームでは、4月から5月にかけて、新入生を対象にしたトレーニング指導がある。まず取り組むのが、身体の状態のチェックだ。
 腰を下ろして、足がどこまで開脚するか、その状態で胸を前につけることができるか、足裏を合わせた状態で膝を地面につけられるかなど、いくつかの動作をやらせてみて、股関節、膝、足首、肩などの状態をチェックする。詰まり感があるとすれば、その部分が硬くなりがちなわけだから、入念なストレッチが欠かせない。どこが硬くなるかどうかは1人1人違う。自分の身体の特徴を最初に把握することで、どこを鍛えていけばいいか、どう改善すればいいかの方向性が見えてくる。これを部員2人1組でやらせることにも意味があって、お互いの眼で確認し合うことで、身体の使い方に対する理解がより深まり、自主性を育むことができる。
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 「首回りが硬くなると、脳に血流が行きにくくなる」
 そんな説明を部員たちにしていた。緊張して良いパフォーマンスができないときは、首回りが硬くなっていることが多い。普段から首回りを意識して柔らかくしておくことで、脳への血流をスムーズにする。そうすることで身体の面では余計な方の力みをとり、心の面では集中力が持続し、判断力が高まり、直感やひらめきが生まれやすい。こちらは「心」の準備にもつながる大切な要素だ。

・地に足をつける感覚から始まる「センタリングトレーニング」
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 最初に取り組んだトレーニングは、裸足になって足の裏の感覚を磨くことだった。近年はシューズの機能が飛躍的に向上する一方で、足裏の感覚が鈍くなり、腰痛などの原因になっているという話を聞いたことがある。まっすぐ立っているつもりでも、どちらか片方に体重がかかっていて「足の裏を広くべったりつける感覚が分からない選手も多い」と高司は言う。
 足裏の感覚を高める方法として、足の指の間に手を入れて、1本1本の指を動かしたり、拇指球、土踏まず、かかとなど足裏のあらゆる部分を指圧して刺激を与えるなどのコンディショニングを数分間やらせてみた。やる前と後とでは、立った時の感覚が明らかに変わったという部員が大半だった。
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 足裏をしっかり地面につけて立つということで、メンタル的にも「地に足がついた状態=グランディング」を作ることができる。これは、状況・環境・時間などに応じた現実的な判断を行うことに役立つ。このグランディングとつながるのが、「センターポイント」へその下、いわゆる丹田のあたりの感覚である。この逆が「浮足立った」状態にあたる。2つの違いを分かりやすく説明するために、ある実験を部員たちにしてみた。
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 軽く頭に刺激を与えながら意識を上に持っていった状態と、へその下、いわゆる丹田のあたりを、相撲取りが立ち合いの前に廻しを叩いて刺激を入れるような感じで叩いてみて意識を下に持っていった状態との両方で、パートナーが後ろから抱え上げてみる。意識が上にあると力を入れなくてもスッと持ち上がるのに、下にある場合は重みがかかって中々持ち上がらなくなる。多少の個人差はあったが、鹿中央の1年生もほとんどがそうだった。

 ピンチを迎えた投手や、ここで一発逆転の状況で打席に立つ打者など、精神力が試される場面がある。そういうときに、しっかり地に足をつけてプレーができるようするのが日々の練習だ。緊張したり、浮足立っているときは実際に意識が上にあって、足の裏でしっかり立てていないことが多い。ならば緊張しそうな場面でも、足の裏でしっかり立つことで、浮足立った気持ちを静め、落ち着いてプレーする準備をする。心と身体はつながっているため、心だけでなく身体から自分の可能性を高めるアプローチしていこうという取り組みである。

・身体の「中心」を作る
 土台となる足裏の感覚を意識した次に指導したのは「身体の軸を感じる」ことだった。高司は1年生たちに身体の軸を感じるうえで基本になる「センターライン」「センターポイント」「サイドポイント」の3つを説明した。ただやみくもに身体を動かすのではなく、身体の中心から動いている感覚を持ってもらうためにイメージする場所である。
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 「センターライン」とは頭頂から背骨を通って地面まで1本のレーザーのような直線が抜ける感覚である。頭が空からフックでつるされるような姿をイメージすると、身体の中心に1本の軸線ができる感覚もイメージしやすく、肩の力みも抜けやすい。心の中で確固たるぶれない信念を持つのと同じように、自分の身体にもぶれない軸線を作る。
 「センターポイント」は前述したように、へその下、丹田と言われる部分にソフトボール大の球があると想像してみる。迷いや不安を払しょくして、度胸を据えて勝負に臨む際には、この部分の意識が大きな働きをする。「サイドポイント」は両足の股関節部分にボールがあるイメージだ。前後左右の素早い動き出しの起点になる場所であり、気持ちの切り替えや積極性を生み出す。
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 それぞれのポイントをより具体的にイメージしやすいように、いくつかのボディトレーニングを伝授した。センターラインを作る際には、しっかりグランディングして真っ直ぐ立ち、両手を内側に向けて挙げて空から頭をつるされたようなイメージで浮き上がり、そのまま屈伸する。サイドポイントは両手を挙げた状態から、左右に伸脚してみる。「力」を使って動かすのではなく、身体の内側にセンターラインやサイドポイントがあるイメージを持って、スムーズに、滑らかに動かせるようになることがコツだ。
 自分自身の心の状態によって身体の感覚は変化する、ということを感じとれるようになり、それをコントロールできるようにしていくための「センスアップトレーニング」である。

・「人間形成」につながること
 1年生の池田空大は桜島中の出身で、中学時代は投手だった。軟式から硬式に変わってボールや練習のスピードの違いに戸惑いながら、高校野球に慣れようとしているときに高司の指導を受けた。「今まで内面のこととか、意識したことは全然なかった。センターラインや重心の取り方を意識しただけで動きが違った。学校生活の中でもどんどん取り入れていきたい」と言う。
 中学時代、遊撃手だった田中歩希は「こんな考え方があると初めて知って新鮮だった」と言う。プロ野球の選手でも、内面の感覚を生かしてプレーしている選手とそうでない選手がいる。今度、プロ野球を見るときはその違いにも気をつけて見てみたい。股関節の硬さがまず改善ポイントという田中は「自分の持っている最高のプレーができる選手になる」というのが、プレーヤーとしての目標だ。

 最後に部員たちに配ったプリントに次のようなことが書かれていた。この日の指導の要点が凝縮されている。

~動きのコツ(骨)を覚えること~
身体を効率よく動かしていくためには、筋だけでなく骨から動かす意識を持つことで、より内面から身体を使うことができる。そうすると力みがなくリラックスした動きでスピードやパワーを発揮して、キレのよい動きや鋭い動きやしなやかな動きが可能となる。深い感覚意識を持つこと。


 高司が指導する際には「気づき」や「感じる」という言葉がよく出てくる。まずは、自分の身体がどんな状態かを理解し、改善すべきポイントを見つける。その上で身体を内側から動かしているイメージを持って、自分の内面に対する感覚を研ぎ澄ます。その気づきや感覚を磨く手伝いをするのが自分の仕事であると高司は考える。

 「部活動は生徒指導の一環。最終的には人間形成につながるものを伝えてもらっています」
 鹿中央の監督・下野政幸は言う。高司の1つ下の後輩で、母校の監督に就任した7年前から、定期的に指導を仰いでいる。内面の意識を高めることは、野球のトレーニングの時間だけでなく、日常生活の場でも、本人の心掛け次第で工夫を凝らせばいくらでも磨き上げる時間が作れる。登下校、授業中、食事中…正しい姿勢や動くポイントを意識するだけで変われることがあるのではないか? それが練習時間の短い公立学校が、強豪私学とも伍していける上でカギになるのではないか? 下野をはじめ、高司の指導を受ける公立の監督たちが共通して持っている想いだった。
 「余談ですが、受験でテストを受ける直前に、センタリングの体操をして心を落ち着けたという話を聞くとうれしいですね」(高司)

■プロフィール
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高司譲(たかし・ゆずる)
 1973年生まれ。鹿児島中央高、筑波大体育専門学群、同大学院体育研究科終了。終了後、社会人野球チームのコンディショニングコーチ、トレーナー派遣業の会社で勤務した後、2004年9月、鹿児島に帰郷し個人でスポーツトレーナー業を始める。フィジカルファクトリー代表。
資格:日本体育協会公認アスレティックトレーナー、健康運動指導士、心理カウンセラー
所属学会など:日本スポーツ心理学会、日本トレーニング指導者協会
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テーマ:高校野球 - ジャンル:スポーツ

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