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心身一如への道・第3回
自分の力を発揮するために必要なこと
皇徳寺中の場合

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 「心と体のコンディショニング 心身一如」

 鹿児島県内を中心に、個人でスポーツトレーナーを営む高司譲の名詞にこんなフレーズが銘打ってある。野球に限らず、スポーツ選手が持っている能力を最大限に発揮し、最高のパフォーマンスができるためには、心(メンタル)と体(フィジカル)、両面のコンディショニングが欠かせない。高司は、仏教用語でいう「心身一如」な状態をいかに作り上げるかをテーマにトレーナー活動を行っている。今回は中学生を対象にした講習会の模様をレポートする。(敬称略)


※スポーツトレーナー・高司さんの活動を通じて、スポーツ選手の心と身体の問題についていろんな切り口で定期的に伝えていきます。
2012年8月20日 皇徳寺中体育館にて

 皇徳寺中野球部監督の粟ケ窪英樹は高司と同年代。以前から親交があり、高司が伝える「心」や「身体」の使い方の基本を中学生にも教えてもらいたいと考えていた。中学校の場合、生徒指導や教科に関する研修はあるが、部活動指導に関する研修はほとんどない。経験のない競技の顧問を任されることも多い。身長は大きく伸びるが、筋肉はつきにくいとされる年代で、心身ともに多感な時期の中学生にどんな指導をしたらいいのか、悩む同僚も多いという。
 「新しいことを取り入れて、先生や生徒たちの刺激になり、自信をつけてもらって、学校を活性化したい」(粟ケ窪)
 夏休みのある日、体育館に野球、バスケットボール、バレーボール、サッカーなどのスポーツ系部活動に吹奏楽部も合わせて1、2年生を中心に約200人が参加して、高司の講習会が実現した。これまで高校の野球部を中心に、チーム単位で指導をすることはあったが、これだけ大勢の人が集まった場で指導をするのは高司も初めての経験だった。

・心と身体はつながっている
 「心」と「身体」の使い方の基本については、前回、鹿児島中央高野球部の1年生を対象にした指導でも詳しく取り上げた。使い方の基本は中学生も高校生も同じである。今回は座学も兼ねていたので、プロジェクターなどを使用しながら、より詳しく分かり易く中学生に説明していた。
 「本番で緊張して本来の力を発揮できない子が多い。それを改善するにはどうしたらいいか?」
 粟ケ窪が高司に指導を依頼した理由の一つである。高司はまず200人の生徒たちを前に「心と身体はつながっている」ことを理解してもらうために、ある実験を試してみた。
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 2人1組でペアになり、1人が利き手の中指と親指を合わせて、力を入れる。もう1人がこれを力づくで外そうとするとき、下を向いてマイナスなことをイメージしているときと、上を向いてプラスのことをイメージしているときとで、違いがあるかを感じてみる。9割方の生徒は、下を向いているときはあっさり外れるのに、上を向いているときは外れにくいと答えた。姿勢を正し、気持ちを前向きにしている方が、力を入れやすく発揮しやすいことを示す分かり易い実験である。
 中には、その違いが分からない人や、下を向いていた方が力を発揮しやすいと答えた生徒もいた。個人差もあるので一概には言えないが「マイナス思考が染みついていたり、悪い姿勢で普段からいることに慣れてしまっていてその方が力を入れやすい場合もある。でもこれは良い傾向ではないので、今のうちから改善しておいた方が良いです」(高司)。
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・ストレッチも真剣にやると汗をかく

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 心と身体がつながっていることが理解できたら、次に必要なのは自分の力を発揮するための準備運動だ。自分が行うことがうまくいかない時は、雑念があり集中できておらず、不安や恐怖などの感情が生まれ、その心が筋の余計な緊張にあらわれ、力みとして動作(体)に現れてしまう。だから、普段から体を柔らかくしなやかな状態に保つことが重要だ。
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 座ったまま両足を開脚してそのまま胸を前につける。前後に開いて腸腰筋、ハムストリングスを伸ばす。足を前後に開いたまま体側を伸ばす。股割の状態から肩を左右交互に入れる。肩甲骨、首回りを動かす…1つ1つの動作にどんな意味があるか解説しながら、普段何気なく準備運動でやっているストレッチの大切さを高司は中学生たちに説いていった。
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 心と身体がつながっていることを知っていれば、ストレッチでしなやかに柔らかく使える身体の状態を作っておくことが、前向きな気持ちの準備にもつながると理解できるだろう。激しい運動は何もしていないが、しばらくストレッチをやっただけで、中学生たちも汗ばんできた。夏場の体育館の暑さだけが理由ではない。
 「ストレッチも真剣にやると汗をかくんです」
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・呼吸の大切さ―「フロー」状態を作るために

 人間が一番集中していて力が発揮できやすい心理状態を、心理学用語で「フロー」な状態という。
 フローとは、アメリカのシカゴ大学心理学科のミハイ・チクセントミハイ教授が長年研究し作りあげた理論で「1つの活動に深く没頭しているので他の何ものも気にならなくなる心の状態、その経験それ自体が非常に楽しいので、純粋にそれをするということのために多くの時間や労力を費やすような心の状態」と定義されており、これを「最適経験」と表現している。
 緊張しすぎはもちろん、緩み過ぎていても人は持っている力を発揮することはできない。程よく張り詰めていながら、程よくリラックスしているとき、余計な雑念が頭から抜けて夢中になっており、今やるべきことに集中していて、成果の上がるパフォーマンスをしている。高司が目指す「心身一如」な状態を作るトレーニングは、この「フロー」な状態を作れるよう、自分自身をコントロールする訓練でもある。
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 自分自身を「コントロール」する上で大切なのは「呼吸」である。「呼吸は自分をコントロールする武器になります」と高司は力説する。具体的には口から息を吐くときに「マイナスなもの」を吐き出し、鼻から吸うときに「プラスなもの」を取り入れるイメージを持つことである。中学生たちに紹介したのは、あおむけに寝そべり、12拍で息を吐き、6拍で息を吸いながら、マイナスを吐き、プラスを吸い込むイメージトレーニングである。筆者も一緒にやってみたが、呼吸一つでもそういう意味付けを持ってやることで、気持ちが落ち着きリラックスした良い精神状態になれる気がした。
 この感覚を身につけておくと「メンタルクリーニング」=「切り替え」に役立つ。スポーツでも日常生活の中でも、すべてが自分の思い通りいくわけではない。むしろ思い通りいかないことを引きずって、結局何もうまくいかなかったという失敗を多くの人は経験している。呼吸で自分をコントロールする術を知っていれば、失敗しても、息を吐くことで悪いイメージを吐き出し、プラスのものを吸い込んで次に切り替えることができる。要はそういったイメージを持つことを日常生活の中で習慣づけておくことが大切なのだ。

・「中学生に戻って習いたかった」
 この日の講習は、一通り心と身体の使い方、具体的なトレーニング方法などを解説・実践し、最後は生徒や先生からの質問も受けながら、約4時間みっちり費やした。
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 男子バスケットボール部主将の黒瀬健斗(2年)は「パワーポジションの取り方が勉強になった」という。「パワーポジション」とは軽く膝が曲がり、骨盤は起きた状態で腰が落ち、背筋がまっすぐで上体は前傾でリラックスした状態のこと。この姿勢ができていると、360度あらゆる方向に力強く一歩を踏み出すことができる。野球の守備、バスケットのディフェンス、テニスの待球…あらゆる競技で応用が利く。これを覚えるために、膝をつま先より前に出さず、内側や外側に向いたりしないで真っ直ぐ腰を落とす正しいスクワットのやり方を高司は指導した。「普段のルーティーンでこのスクワットを取り入れていきたい」と黒瀬は言う。
 女子バレーボール部主将の佃朱音(2年)が一番勉強になったのは「柔軟性」の大切さだった。「身体を柔らかくしなやかに使う」ことで自分の力がより発揮できるようになることを理解できた。
 吹奏楽部顧問の森山富士子は「音楽とスポーツは、とても共通点があると強く感じた」という。特に、呼吸について話は息を重要とする吹奏楽部にも大いに参考になる内容だった。「心を安定させ、いい呼吸することを部活動の中でも工夫して指導していきたい」と話す。
 男子ソフトテニス部顧問の牧迫大輔は講習の後、部員たちを集めて、この日ならったことを早速実践し、再確認のミーティングをしていた。牧迫が一番勉強になったのは「マイナスのセルフトークをやめる」こと。「きつい」「だるい」「疲れた」…子供たちは、練習に限らず、普段の日常生活からこういうマイナスな言葉を使いがちだ。素直な反応ではあるが、そのことが実はマイナス思考を知らず知らずのうちに習慣づけていることに、初めて気づいた。ストレッチのやり方なども、今まで何となくやってきたことを見直し、どのやり方を取り入れるか、部員たちに考えてくるように指示した。牧迫自身は空手や陸上などのスポーツ経験はあるが、ソフトテニスの経験はない。その中で競技に関係なくオールマイティーな心や体の使い方の基本を学べたことは、日常生活指導にも応用できる大きな収穫だった。

 「自分が中学生に戻って受けたいぐらいですよ」
 講習会を企画した粟ケ窪は興奮気味に話す。筆者もそうだが、中学生の頃、初めて部活動に入った頃は何も分からず、ただやみくもにきつく厳しいトレーニングを繰り返すことだけが向上の道だと思い込んでいた。
 極端に言えば「水も飲まずにうさぎ跳びで身体を鍛える」ことが正しいと教えられてきたが、「それは違うのではないか?」と疑問を持つようになった。より効果的で成果の上がる方法を知っている高司のトレーニングを、次の世代に伝えていこうという取り組みの一環がこの日の講習会だったといっても過言ではない。

 「私はたくさん失敗したから、今ここにいる」
 講習の中で、高司はマイケルジョーダンの言葉を紹介した。ジョーダンほどのスーパースターも、意識してもできないたくさんの失敗を経験した。ジョーダンが他の人と違ったのはその失敗の経験をフィードバックし、あきらめずに継続し続けたところにある。中学生たちが、自分の持っているものを発揮できるようになれるかどうかは、今後の「継続」にかかっている。

■プロフィール
高司譲(たかし・ゆずる)
高司さんプロフィール
 1973年生まれ。鹿児島中央高、筑波大体育専門学群、同大学院体育研究科卒。卒業後、社会人野球・三菱重工横浜野球部のコンディショニングコーチ、トレーナー派遣業の会社で勤務した後、2004年9月、鹿児島に帰郷し個人でスポーツトレーナー業を始める。フィジカルファクトリー代表。
資格:日本体育協会公認アスレティックトレーナー、健康運動指導士、心理カウンセラー
所属学会など:日本スポーツ心理学会、日本トレーニング指導者協会

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